[薬用部位] Zingiber officinale Roscoe の根茎
[起 源] ショウガ科の多年草ショウガは熱帯アジア原産でありながら耐寒性が強いために古くから世界中で栽培され、コショーと並んで世界中で最もポピュラーなスパイス類のひとつです。 冬期でも7~8℃程度あれば栽培が可能ですが、日本では南九州以南でないと開花・結実はしません。 根茎の発達が著しく、大株になると50㎝を超えることもあります。 また茎を有せず、葉をくるくると巻いて強度を持たせた偽茎を次々にたちあげて30~50cmほどになります。 ショウガ科植物には花をつける位置が頂生、腋生、根生とバリエーションがありますが、元祖ショウガは芳香性の高い白色花を頂生します(園芸店で販売されている芳香性と気品のある白色花の「ジンジャー」という植物はショウガとは無関係です)。
[成 分] 揮発性精油成分を大変多く、多種類含有しています。
テルぺノイド類(d-camaphor、camphene、α-pinene、cineol、citoral、linalool、β-phellandrene、zingiberol、ingiberene、metylheptenone、nonyl aldehyde、その他ジテルペン類など)
その他辛味成分としてフェニルプロパノイドと直鎖脂肪酸が結合した成分とその誘導体を含有しています(gingerol、shogaol、gingeroneなど)。
[用 途] 食用(スパイス・薬味・食品の嬌味剤などとして)、薬用など
[薬 能] 一般には芳香性健胃薬として知られ鎮痛・鎮痙作用、発汗作用などが有名ですが、このような単発的な薬理作用の積み重ねだけでは漢方処方へのショウキョウの配剤理由がわかりません。 また近年「ショウガは身体を温める」としてブームになっていますが、他方で「熱帯産のスパイスはカレーをはじめとして身体を冷やす」とする書物も多く、混乱が生じていますので、まず誤った先入観による間違いを正しくする必要があります。
「熱帯産のスパイスは身体を冷やす」という考え方は半分正しく、半分間違っています。 もしこのようなことが絶対的に正しいなら、何故寒い北方で生活するヨーロッパ人は大航海時代に東南アジアを占領(ごく最近までインドはイギリス領・ベトナムはフランス領などでした)して大量のスパイスを持ち帰り、西洋食文化を構築できたのかを再考する必要があります。
寒い地域で毎日料理でスパイスを摂るわけですから、身体を冷やす作用が絶対的であれば皆冷えて体調不良で寝込んでしまうでしょう。 さらに「スパイスは身体を冷やす」と言っておきながら「ショウガだけは身体を温める」というのはもっと矛盾しています。
これらを解き明かす最大の要点は「量」(特に辛味性スパイスの量)にあります。 欧米人や日本人が東南アジアの食事を摂るとその辛さに驚かされますが、日本や欧米の食事ではあれほど辛くしてスパイスを使用することは日常的ではありません。
東南アジアの人々は発汗できるレベルを目指してスパイスを使用しますので、結果として体温が下がるので「スパイスは身体を冷やす」ことは正しいと言えます。 しかし日本人や欧米人のスパイスの使用レベルは発汗を目的としません(東南アジア人から見れば香りづけ程度)。 結果的に血流や新陳代謝を促進して「身体を温める」のです。 薬能(効能・効果)は絶対的ではなく、相対的です。 毒が量を減らせば薬になるように、同じスパイスでも量や使用方法の違いで全く異なる作用が現れることも知る必要があります。
また当HPの「桂枝」(シナモン)の項目にもあるように熱帯産でも種類や生育環境によってはむしろ寒性よりも温性の方が勝る場合があることを知るべきです。
ショウキョウは漢方の世界では問題の多い生薬のひとつです。 中国では生のショウガをショウキョウとして使用しますが、日本では石灰をまぶして乾燥させた乾生姜をショウキョウとします。 さらに問題なのは辛温または辛大熱とされる温性の強いカンキョウです。 例えば炎症性の高い膿血便が出ている症状に温性の高いカンキョウの配剤された桃花湯を使用することが矛盾しますし、同様に血流の乏しい厥陰病に使用する四逆湯にカンキョウが配剤されると血液に熱を持ってしまうことが危惧されます。
これらを解決しないとショウキョウ・カンキョウを論じることはできません。
ショウキョウを栽培したことのある方はガーデニングの好きな方でないとあまりいないかもしれませんが、ショウキョウは畑で抜いてみると簡単に抜けることからわかるように、温度・湿度の変化が大きい浅い地表付近を好んで生育しています。 熱帯から温帯の地表付近は高温・高湿度ですから、成長の早いショウキョウは旺盛な代謝熱を高温・高湿度に逆らって気化・放熱する能力が高いことがわかります。 したがってショウキョウは温める温性ばかりでなく、冷やす作用もあることがわかります。
またカンキョウは乾燥させると組織が透明になることからわかるように、成分が変化して組織浸透性が高くなることがわかります。 ショウキョウの成分が乾燥によって酸化されたせいぶんは、分子内に吸熱性の高いカルボニル基を伴った共役二重結合を有しているため、炎症部位で過剰な熱エネルギーを吸熱し、冷えて機能低下した組織にこれを与えて熱エネルギーの偏在をなくし、組織全体の代謝を正常化します。 ショウキョウを乾燥させたカンキョウもその作用点は浅い組織であるはずですから、カンキョウの作用は次のように考えられます。
冷えて機能低下した組織層があり、その下部に冷えた組織に塞がれて放熱できない熱エネルギーが停滞して炎症を起こしかかっているいる場合に、カンキョウは下部組織から過剰な熱エネルギーを吸熱して上部の冷えた組織層に運搬し、上部の冷えた組織層を温めて熱の偏在を解消して皮膚の蒸泄機能を正常化するものと考えられます。
このように考えると上述の桃花湯の適応症では、腸内粘膜面が冷えて腸液が分泌できないと腸内腔に放熱できない代謝熱が粘膜下に停滞していて、「面での排熱ができずに点で排熱している」状態で噴火口のようにところどころから血液ごと排熱しているために膿血便になっていることがわかります。 したがってカンキョウは粘膜下組織の過剰な熱エネルギーを吸熱し、上部の粘膜組織を温めて「点で排熱している状態を面に広げて熱エネルギーを下げて排熱している」作用を有していることがわかります。 四逆湯の適応症も同様に冷えた皮膚全面下部に停滞した過剰な熱エネルギーをカンキョウが吸熱して皮膚全面に付与し、皮膚の蒸泄機能を正常化して排熱させる作用のあることがわかります。
以上のことから、ショウキョウは主として皮膚・粘膜など湿った組織の表面的な熱を気化・放熱させる作用のあることがわかり、皮膚面にも消化管粘膜にも作用して放熱から分泌機能までを正常化することがわかります。
一方カンキョウは冷えて機能低下した組織に塞がれて、排熱できない下部組織にこもった熱エネルギーを吸熱して上部組織を温め、面での排熱機能を正常化するものであると考えられ、同様に皮膚面にも消化管粘膜にも作用するものと考えられます。
2010/10/19